夏を呼ぶルビー。
春に咲く花、といえば、サクラ。
けれど、山形の春はいたるところで、
くだものの花が咲き誇る。
遠くの山にはまだ雪が残っててね、
でも陽射しは一日一日暖かさを増して、
北国はこうして少しずつ、短い夏に向かっていく。
高橋さんは、さくらんぼの果樹畑で
「受粉」のシゴトに精を出す。
受粉は、まずミツバチの助けを借りる。
オレたちはさらにその手助けをするんだ。
手間のかかるヤロコみたいなもんだな。
高橋さんが笑う。
*ヤロコ=こども
雨の季節が近づけば、
大切な我が子を雨に濡らさないよう、
ぜんぶの木にビニールの屋根をつくる。
そう、ぜんぶの木に。
そして初夏。
宝石のようにつやつやと輝く、
大事に、大事に、育てられた、
高橋さんのさくらんぼ。
ほら。
と双子の一房を差し出されて頬張ると、
甘酸っぱいお日さまの味がした。